みなさん一度は目にしたことのある、柔らかくてかわいらしいイラストが印象的ないもとようこさんの絵本。
独自のはり絵の手法を用いて描かれた絵は、見た人にあたたかみを届けてくれるものばかりです。
赤ずきんや三匹のこぶたのような名作に加え、数々の作家さんの絵本でもいもとさんのはり絵が使われてきました。
この記事でご紹介したいのは、物語もイラストも全ていもとさんが手がけている絵本たちです。
心あたたまるものから、ちょっぴりせつなくなる絵本まで、心の奥にジーンとくるものを厳選しました。
子どもだけでなく、読み聞かせている大人に響く作品ばかりですよ。
生き方は様々、決めるのは自分「ましろのあさ」
申し分ない環境で飼われていたうさぎが、自由に憧れて網から飛び出すところから始まります。
ところが外は厳しさの連続…お家へ帰りたい、にんじんが食べたいと心が弱ってしまいますが、自分で行動したことで新しい発見がいくつも。どんな環境にいようと、幸せかどうかを決めるのは自分。
進路や職業の幅が昔とは様変わりしつつある昨今、どう生きていくか、どう生きたいかをお子さんたち自身も問われる時代になりました。グローバル化が進み、これまでの一歩下がって周りに合わせる姿勢よりも、主体的に行動することが評価される時代になってきましたね。この本は「何が自分にとって幸せか」「楽するばかりが人生なのか」、そう自分に問いかけるきっかけをくれるかもしれません。
この本は1983年に初版が発行されていますが、生き方や選択肢が多様化している今でこそ、読んでほしい1冊です。
前を向かせてくれる「かぜがふいてきた…」
一人ぼっちで何も持っていない男が、ひょんなことから動物たち出会い、一緒に過ごすところから物語が始まります。
楽しくて、あたたかくて、ずっとこうしていたい。でも幸せは長くは続きませんでした。幸せが途切れたとき、彼は一体どうなってしまうのか。
私たちが逆境に立たされた時、くよくよするのではなく、前向きにポジティブに。幸せな経験は、それがなくなったあとでも何かの学びを残してくれる、そう考えさせられた一冊です。
今たくさん抱きしめてあげて「花のかみかざり」
看護師のうさぎさんが、かつての患者さんを抱きしめてやらなかったことを後悔しているお話です。愛しているなら子ども大人にかかわらず、たくさん抱きしめなきゃ、と思わされます。
この絵本では「抱きしめることは愛している しるし」ということが強調されていますが、私には「人は見た目で判断してはならない」というメッセージも強く響いてきました。
わかりやすい文章なので幼児でも楽しめますが、人と関わる機会が増える小学生以上の子どもたちにも読んでほしいと思います。
親心に触れられる「つきのよるに」
これは読んでほしいを通り越して買ってほしい本です。
カモシカの子どもが、お母さんと離れて一人立ちするまでの心境の変化を描いています。お子さんはきっとカモシカの子どもの気持ちになるでしょう。「かわいそう」「びっくりした」という感想が聞けるかと思います。
しかしこの本ではお母さんの気持ちにフォーカスを当てて読んでもらいたいですね。どうしてお母さんがあんなことをしたのか、子どもはどうして最後「ありがとう」と言えたのか。親心を少し理解して、ちょぴり大人になれるかもしれません。
私は読むたびに何度も泣いてしまいます。カモシカの子どもが受けた心のショックと、お母さんの断腸の思いを考えては。いい本です。
ちなみに本の中には「カモシカ」だとは書かれていないので私は「やぎ?おおかみ?」と思いましたが、夫はガゼルだと言っていました。ガゼルではないと思う…
命について考える「ずっとそばに…」
住める場所が狭くなっていくなかで、寄り添いともに暮らしていく森の動物たちのお話。
みんなのために一生懸命なくまさん、くまさんに寄り添う動物たちが健気(けなげ)でうるっときてしまいます。結末はちょっと悲しいのですが、優しくされた経験があると、自分も誰かに優しくできるというメッセージを子どもたちに与えてくれます。
また大人である私たちには、人間と動物、どちらも命の重みは一緒だとあらためて考えさせられる内容になっています。悲しい結末は、人間の欲が招いてしまったのでしょうね…。